NYレポート Part1
9月25日
ニューヨークでの第1日。まずはNY近代美術館(MOMA)でのジブリ回顧展へ。インフォーメーションデスクで12時からのラピュタのチケットを無事にゲット。

友人の友人(^^)との待ち合わせまでにまだ時間があったので、ミュージアムショップをぶらぶらすることにしました。ショップの一角にはThe Princess Mononoke : The Art and Making of Japan's Most Popular Film of All Time (”ジ・アート・オブ・もののけ姫”の英語版)とアニメ評論家Helen McCarthy によるHayao Miyazaki: Master of Japanese Animationが他の日本アニメ関係の本数冊と共にディスプレイされていました。”The Art"はいわゆるコーヒーテーブルブック(居間のテーブルの上などに飾りで置かれる大型のハードカバーの本)の形態で、かなり高級感がありますが、表紙の色があまり美しくない気がします。
待ち合わせの時間になって、無事メールでの打ち合わせどおりPaulとPamelaに会えました。PaulはSF/ファンタジー/アニメーションに関するライター/評論家、Pamelaはアニメーションアート(米国ではディズニーなどのアニメーションに関するアートが収集の対象として高く評価されています)の鑑定家で、二人ともこれまで日本のアニメにはあまり関心がなかったのですが、今回のMOMAでの上映を通してジブリアニメの大ファンになったそうです。
上映15分前になったので地下二階にある劇場へ降り、席を確保。観客には日本人の姿もかなり目立ちますが、多数派ということはありません。老人もかなりいますが、これはMOMAのメンバーになると入場料が無料になるため、こうした上映会にいわば常連としてきている人達らしいです。どう見てもアニメ映画を見るようなそうではないのですが、2,3人を除いて途中だれも席を立つこともなく、皆さんラピュタを楽しんでいたようでした。
400席以上ある劇場は12時前にはほぼ満員となり、そして上映が始まりました。
私がラピュタを劇場で見るのは1986年の劇場公開以来のことです。もちろんその後TV放映やビデオで何回も見ていますが、今回劇場で見てやはりジブリ映画は劇場で見るべきだと強く再認識しました。今回上映されたのはおそらく新たに作られた英語字幕版で、プリントの状態はほぼ完璧で、音響もかなり良かったです(時折下を通る地下鉄の音が響いてきましたが)。字幕の出来もかなり良いものでした。
ビデオではなく劇場のスクリーンで見ると、ジブリ映画の色の美しさ、細部にわたる丁寧な作画と美術の素晴らしさがよりはっきり分かります。(ラピュタの破片と共に落ちていくムスカもエンジンルームから飛び出してくる老技師も今回はっきりわかりました。) 何より劇場の暗闇の中では光と闇のコントラストがよりはっきりとして、たとえば坑道の中のシーンの不安感や美しさなどがより際立ちます。
そして何より劇場で見る楽しみは観客の反応です。アメリカ人の観客の反応は日本人のそれよりも派手で、アクション映画などでは大騒ぎしながら見るので、映画によってはかなり盛り上がります。ラピュタにおいてもまず冒頭の飛行船の襲撃シーンで観客がぐいぐい映画に引き込まれていくのが手に取るようにわかりました。続くオープニングクレジットで宮崎監督の名前が出ると大きな拍手が沸き起こり、その後は笑ったり、拍手をしたり、息を呑んだり、と劇場中が一体となって映画を楽しんでいました。パズーがシータを要塞から無事救出したシーンでは拍手喝采で、次のせりふが一瞬聞こえなくなるほどでした。おこがましい言い方ですが、改めて「ラピュタって本当によくできた映画だなあ」と思いました。このような観客と一緒にジブリ映画を鑑賞できたことは本当に幸せな体験でした。(実は恥ずかしながら途中で涙が出てきました ^^;)
映画が終わってエンドタイトルが始まるとまず大きな拍手。米国ではエンドタイトルを見ずに席を立ってしまう人がほとんどで、今回もすぐに出ていってしまう人もいましたが、かなりの人が最後まで残り、宮崎監督の名前が最後に出るとまた大きな拍手がわきおこりました。
上映が終わって、この後用事があるというPaulとPamelaと別れ、私はカフェテリアで遅い昼食をとりました。実はどういうわけか次の上映は5時からの火垂るの墓だと思い込んでいて、昼食後は常設展を見ようと考えていました。ところが偶然次の上映は3時からのトトロだということがわかって、急いでインフォーメーションデスクへチケットをもらいに行き、再び下の劇場へ。自分がどんなにラッキーだったかはこの後で分かりました。
劇場には既にかなりの人が入っていましたが、何とか席を確保して座っていると、友人のJustin Leachがやって来て、今劇場の外に宮崎監督がいる、と耳打ちしました。(別の友人のEnricoは宮崎監督がMOMAに入ってくるところから一緒だったそうですが、残念ながら私はそれを見逃してしまいました。^^;)
上映時間の3時までには劇場は満員となり、そして館内が暗くなるとスクリーン脇の演壇にスポットライトが当たり、MOMAの責任者が現れて、今回ジブリの映画を上映することができてどんなにラッキーだったかを述べた後で、今日のトトロは英語字幕版なので、字が読めない子供たちのために親が解説してやってもかまわない、と述べました。驚いたことに、彼によると今回字幕版を上映するのは、今ある吹き替え版はジブリの気に入らないからだそうです。しかし現存の字幕版はもともとJALで上映するためにジブリが米国の会社に依頼して制作したもので、これまでに聞いた話ではジブリはその出来に満足しているということでしたし、米国のアニメファンの評価も大変高いものでした。もしかしたら魔女の宅急便ともののけ姫の吹き替え版(ともにトトロとは桁違いの費用をかけた吹き替え版)を見た後でジブリの要求水準が高くなってしまったかもしれないし、「気に入らなかった」のはジブリではなくディズニーだったのかもしれません。ディズニーは米国での発売においては現在の吹き替え版(ライバルのFoxから発売中)を使用せず新しく吹き替え版を作る予定なので、それは十分にありえます。
続いて、MOMAの責任者が「今日は特別に東京から鈴木プロデューサーと、そして宮崎監督が来ている」と告げると、劇場は大きな歓声と拍手に包まれました。そして後ろから宮崎監督と鈴木氏が登場し、通路を通って演壇に向かうと、観客は立ちあがって熱狂的な拍手で監督を迎えました。
宮崎監督は恥ずかしそうな微笑みをうかべながらいつもの早口で、トトロは13年前の作品だが、実はそのもっとずっと前から作りたかった作品であり、この作品がみなに喜んでもらえばとてもうれしい、などと述べ、再び拍手の中を去っていかれました。(実は写真を撮ったのですが、間違えてデジカメのデータを消してしまいました。ああ私のバカ!)
さて、上映が始まって(オープニングの宮崎監督の名前で再び大きな拍手)しばらくの間、私の隣に座っていた小さな女の子はずっと母親に「今なんていったの?」と字幕の解説をせがむので、少々うるさい思いをしました。しかし、すぐに彼女は静かになり、食い入るように画面を見つめていました。母親によると吹き替え版はこれまでに何度もみたそうなので、話は当然知っているのでしょうが、それでも宮崎アニメの持つ言葉の壁もも国境も越える圧倒的なパワーを見たようでうれしかったです。
もっとも彼女はずっと静かだったわけではなく、何度も笑い声を上げたり、ネコバスが出てくるシーンでは「ここ大好き!」などと母親に話したりしていました。他の観客もラピュタのときと同じように笑ったり、拍手したり、どよめいたり、と劇場が一体となってキャラクターと一緒に喜んだり、不安になったり、驚いたりと、映画を楽しんでいました。子供たち(後で聞いた所では米国人の子供達だったそうです)がときどき一生懸命に日本語のせりふを真似しているのも微笑ましく、上映が終わったとき本当に幸せな気分で劇場を出ることができました。
トトロもほぼ完璧なプリントで、字幕の出来も大変良かったです(実は2ヶ所ほどちょっと問題があるのではと感じた所もあったのですが)。トトロを劇場で見るのも日本での1988年の公開以来(もう10年以上前!)なので、初めて見たときのように新鮮な気持ちで見れました。
上映が終わって劇場の外でJustinと彼の同僚のAndreと落ち合って、夕食を食べに行くことにしました。彼らは米国のCGアニメスタジオBlue
Sky Studioのアニメーターで、以前彼らが来日してジブリを表敬訪問した際に私も通訳として付いていって、宮崎監督に「豚屋」で2時間にわたってお話を伺う、という幸運に恵まれました。今回もひとしきり「いやー、あれは良かったよねー」「いまだに自分の幸運が信じられないよ」とその時の話で盛り上がりました。宮崎監督はよほど彼らが気に入ったのか、今回のNY映画祭とその後のミラマックス主催のディナーにBlue
Skyの面々は招待されているそうです。いいなあ。
夕食後、Blue Skyのスタッフが集まるパーティに誘われたので行くことにしました。マンハッタンのアパートの1フロア全部を使った豪華なアパートで、「米国じゃアニメーターってそんなに儲かるの?」と聞くと、「いや、彼はちょっと特別な事情があってここをすごく安く借りているんだ」ということでした。それでもやっぱり日本のアニメーターの給料は米国の水準に比べるとかなり低いようで、Justin達もいつか日本で働きたいのだけど、言葉と給料がネックだと言っていました。
Blue Skyの他のアニメーター達とも話してみた所、彼らの多くが熱狂的な宮崎ファンだと分かりました。今回のMOMAの上映で宮崎ファンになった人もいたようです。彼らは一様に今回のMOMAでの上映でジブリ映画が一挙に見られてどんなにラッキーだったか、そして宮崎アニメが彼らにどんなに強い影響を与えたか、熱心に話してくれました。
夜中の12時を過ぎてもパーティーはまだ続いていましたが、私は明日もあることなので早々に退散することにし、ホテルに戻りました。